表現の自由考

SNSでの断定的な情報発信 表現の自由と信頼性の責任を問う

Tags: SNS, 情報発信, 信頼性, 責任, 表現の自由, 法的リスク, 情報リテラシー

SNSは誰もが自由に情報を発信できる強力なツールとなりました。個人の意見や経験を共有する場として、あるいは専門知識やノウハウを発信するプラットフォームとして広く利用されています。しかし、その手軽さゆえに、時に情報の信頼性や発信に伴う責任について見過ごされがちな側面もあります。特に、特定の事柄について「絶対にこうだ」「〜すべきだ」といった断定的な表現を用いた情報発信は、大きな影響力を持つ一方で、潜在的なリスクを孕んでいます。

表現の自由は、憲法によって保障された重要な権利です。これは、思想や意見を自由に表明できることを意味します。しかし、この自由は無制限ではありません。他者の権利や公共の福祉を侵害するような表現は、法の制限を受ける可能性があります。SNSにおける断定的な情報発信も、この自由の限界と責任という観点から検討する必要があります。

なぜ断定的な情報発信が問題となりうるのか

SNS上で断定的な情報発信が行われる背景には、様々な要因があります。注目を集めやすい、自身の意見に確信を持っている、あるいは単なる知識不足といったケースが考えられます。しかし、特に専門的な知識が求められる分野(医療、法律、投資、特定の技術など)において、根拠が不明確な情報や、誤った情報を断定的に発信することは、受け手に誤解を与え、予期せぬ損害をもたらす可能性があります。

例えば、「このサプリメントを飲めば必ず病気が治る」「この株は絶対に上がる」「〇〇すれば簡単に痩せる」といった断定的な表現は、科学的根拠や客観的なデータに基づかない場合、薬機法や金融商品取引法などの法令に抵触する可能性があり、誇大広告や不確実な情報の提供とみなされることがあります。また、個人の経験談であっても、「自分はこれで成功したから、誰でも必ず成功する」といった形で一般化し、断定的に推奨することは、異なる状況にある他の人にとっては不利益となり得ます。

表現の自由と信頼性の境界線

個人の経験や意見を表明することは、表現の自由の範囲内と考えられます。しかし、その情報が事実であるかのように装われたり、専門家ではないにもかかわらず専門家であるかのように振る舞ったり、特定の効果や結果を断定的に保証したりする場合、それは単なる意見表明を超え、情報の信頼性が問われる局面となります。

特に、不特定多数が閲覧するSNSにおいて、特定の個人や団体、商品、サービスなどについて、事実に基づかない批判や評価を断定的に発信することは、名誉毀損や信用毀損、業務妨害などの法的責任を問われるリスクを高めます。たとえ「個人の感想です」といった但し書きを付けたとしても、内容や文脈によっては責任を免れない場合があります。

表現の自由は、真実の情報を広めることや、公共の利益に関わる問題を提起することにおいては強く保護されるべきです。しかし、それが虚偽であったり、他者を不当に攻撃するものであったりする場合には、その自由には限界があります。情報の「信頼性」は、その表現が社会的に容認されるかどうかの重要な判断基準の一つとなり得ます。

発信者の責任と受信者の心得

SNSでの情報発信においては、たとえ悪意がなかったとしても、結果として他者に損害を与えてしまう可能性があります。そのため、発信者には自身が発信する情報の正確性や根拠について可能な限り確認し、断定的な表現を避ける努力が求められます。特に専門外の分野について言及する場合は、「私の知る限りでは」「一般的には〜と言われているようですが」といった、留保をつけた表現を用いることが重要です。自身の経験談として語る場合も、「あくまで私個人の経験ですが」「効果には個人差があります」といった補足説明を加えることが、責任を果たす上での配慮となります。

一方、情報の受け手である私たちも、SNS上の情報を鵜呑みにせず、その真偽や根拠を自身で確認する姿勢を持つことが大切です。特に健康や資産形成など、自身の人生に大きな影響を与えうる情報については、安易な断定を信じるのではなく、複数の信頼できる情報源を参照したり、専門家への相談を検討したりするなど、批判的な視点を持つことが自己防衛につながります。

結論

SNSにおける断定的な情報発信は、表現の自由の名のもとに行われることがありますが、情報の信頼性を損ない、時に法的責任を伴うリスクを孕んでいます。発信者としては、情報の正確性に責任を持ち、断定を避ける慎重な姿勢が求められます。受信者としては、情報の真偽を見抜くリテラシーを高めることが不可欠です。

SNS時代の表現の自由は、単に「何を言ってもよい」ということではなく、「責任を伴う自由」として理解されるべきです。断定的な表現がもたらす影響を理解し、発信する情報、そして受け取る情報を共に慎重に扱うことが、より健全な情報空間を築くために重要となります。