SNS投稿と著作権・肖像権:どこまでが許される表現か
SNSを利用した情報発信が日常の一部となる中で、私たちは様々な形で自身の考えや体験、あるいは他者から得た情報を共有しています。この「表現の自由」は、私たちのコミュニケーションを豊かにする重要な要素です。しかし、インターネット、特にSNSにおいては、物理的な制約が少ない分、意図せず他者の権利を侵害してしまうリスクも存在します。その中でも特に注意が必要なのが、著作権と肖像権に関する問題です。
自身の投稿が思わぬトラブルに発展することを避けるためには、表現の自由が無限ではないこと、そして他者の権利を尊重する責任が伴うことを理解する必要があります。ここでは、SNSにおける著作権と肖像権の基本的な考え方と、表現活動を行う上での注意点について考察します。
SNSにおける著作権の基本的な考え方
著作権とは、文芸、学術、美術、音楽などの分野で思想または感情を創作的に表現した「著作物」を保護するための権利です。SNSで日常的に共有される写真、イラスト、文章、音楽、動画なども、創作性があれば著作物となり得ます。
例えば、誰かが撮影した美しい風景写真、自身で描いたオリジナルのイラスト、心に残った映画のレビュー文章、あるいは好きなアーティストの楽曲を使った動画など、これらはすべて著作物として保護される可能性があります。これらの著作物を権利者に無断で自身のSNSに投稿、公開、または二次利用することは、著作権侵害となる可能性があります。
インターネット上には様々な情報があふれていますが、それが容易に入手できるからといって、自由に利用できるわけではありません。たとえ出典を明記したとしても、原則として権利者の許諾が必要です。ただし、著作権法には「引用」など、一定の条件を満たせば権利者の許諾なく著作物を利用できる例外規定も存在します。SNSでの引用は難しい側面もありますが、その条件(例えば、引用の必然性、主従関係の明確化、出典の明記など)を満たしているか、十分に検討する必要があります。
SNSにおける肖像権の基本的な考え方
肖像権は、人が自身の肖像(容姿)をみだりに撮影されたり、公開されたりしない権利です。プライバシー権の一部として理解されることが多く、私たちは皆、自分の顔や姿が無断で利用されないという権利を持っています。
SNSでは、日常的に人物の写真が投稿されます。友人や家族との記念写真はもちろん、街中で見かけた人物やイベントでの参加者の写真なども含まれるでしょう。しかし、写っている人物の同意を得ずにその写真をSNSに投稿することは、肖像権侵害となる可能性があります。特に、顔がはっきり写っている場合や、特定の個人が識別できるような状況での無断投稿はリスクが高いと言えます。
また、有名人や著名人の写真についても注意が必要です。彼らの肖像にはパブリシティ権という権利も認められる場合があり、経済的な価値を持つ肖像を無断で商品やサービスの宣伝に利用する行為などは、肖像権やパブリシティ権の侵害となり得ます。
風景写真や街並みの写真にたまたま他人が写り込んでしまった場合など、意図せず人物が写ってしまうケースもあります。こうした「写り込み」がどこまで許されるかは、その写真の主たる被写体が何か、写り込んでいる人物の状況(顔が判別できるか、人数、写り込みの程度など)、撮影場所(公共空間か私的空間か)、そして投稿の目的などを総合的に考慮して判断されます。原則として、個人の顔が明確に識別できる形で、その人物にとって不利益となるような文脈で投稿することは避けるべきでしょう。
表現の自由と権利のバランス
著作権や肖像権といった他者の権利は、SNSにおける私たちの表現の自由を制約するように見えるかもしれません。しかし、これらの権利は、表現の自由と同様に、健全な社会や個人の尊厳を保つために不可欠なものです。誰かが創作した作品が勝手に利用されてしまったり、自分の姿が無断で公開されて誹謗中傷に利用されたりする状況では、安心して表現活動を行うことはできません。
表現の自由は無制限ではありません。公共の福祉に反しない限りにおいて認められる権利であり、他者の権利や利益を不当に侵害しないことが前提となります。著作権や肖像権による制約は、多くの場合、この「公共の福祉」や他者の権利保護の観点から正当化されるものです。つまり、他者の権利を尊重することは、表現の自由を行使する上での責任の一つと言えるでしょう。
SNS投稿で注意すべき実践的なポイント
SNSでの情報発信において、著作権や肖像権の問題を回避するために、以下の点を意識することが重要です。
- 自身の創作物、または許諾を得た素材を利用する: 写真、イラスト、文章、音楽など、自分で作成したもの、あるいは権利者から明示的に利用の許諾を得たものを使用しましょう。
- 著作権フリー・商用利用可能な素材を活用する: 提供元が著作権フリーや商用利用可能を謳っている写真、イラスト、音楽素材などを活用することも有効です。ただし、利用条件を必ず確認してください。
- 人物が写っている写真の取り扱い: 特定の個人が識別できる形で人物が写っている写真を投稿する際は、写っている全員から事前に同意を得ることが原則です。特に、子供の写真やプライベートな空間での写真には慎重な配慮が必要です。イベント等で不特定多数が写り込む場合でも、プライバシーに配慮し、トラブルに発展しそうな写真は投稿を控えるのが賢明です。
- 「引用」は慎重に判断する: 他者の著作物を引用する場合は、引用の目的が明確で、自身の表現が「主」、引用部分が「従」となっているか、出典が明記されているかなど、法的な要件を満たしているかを十分に確認してください。安易なコピペや転載は引用とは認められません。
- プラットフォームの規約を確認する: 利用しているSNSプラットフォームの利用規約にも、著作権や肖像権に関する定めがある場合があります。規約違反はアカウント停止などの措置につながる可能性もあります。
- 迷ったら公開しない: 他者の権利を侵害する可能性があるか判断に迷う場合は、投稿を控えるのが最も安全な選択です。
SNSは匿名での利用も可能ですが、著作権侵害や肖像権侵害といった違法行為を行った場合、発信者情報開示請求によって特定され、法的責任を問われる可能性があります。匿名性は無責任な発言を許容するものではないことを理解しておく必要があります。
結論
SNSにおける表現の自由は、私たちが情報を発信し、他者と繋がる上で強力なツールとなります。しかし、その自由は、著作権や肖像権をはじめとする他者の権利や、社会規範とのバランスの上に成り立っています。無意識のうちに他者の権利を侵害しないよう、常に注意を払い、自身の発信する情報に対する責任を持つことが求められます。
著作物を利用する際は権利者の許諾を得るか適切な引用を心がけ、人物が写っている写真を投稿する際は写っている人物への配慮を忘れないこと。これらの基本的な注意点を実践することが、自分自身を守り、また他者の権利も尊重する、健全なSNS利用へと繋がります。表現の自由を享受するためには、それに伴う責任を自覚することが不可欠と言えるでしょう。